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バルカン紀行 トプカプ宮殿

トプカプ宮殿
バルカン紀行 トプカプ宮殿
           トプカプ宮殿を見学する子どもたち
 イスタンブールは果てしない。東西の架け橋、シルクロードの中心、黒海と地中海をつなぐ要衝の地、イスラムとキリスト教の接点。それらが混然一体となって、2000年もの間、3つの帝国の首都でありつづけ、世界の冠たる国際都市であった。最盛期には世界の3分の2の富を集めていたと言われていた。
 街角を曲がると2000年前の歴史にぶつかる。ほぉーと立ち止まって、また先に行くと、1000年前の歴史にぶつかる。その度に立ち止まっていたら、いつまでたっても抜け出すことができない。どこをどう歩いても迷宮にはまりこんで、謎とロマンに絡め取られてしまう。
 イスタンブールと名を変えたのはオスマントルコの支配になってから。1000年以上もつづいたビザンチン帝国は、1453年、オスマン帝国メフメット2 世の前に陥落する。三方を海に囲まれ、背後にテオドシウスの大城壁に守られたコンスタンチノープルがなぜ落ちたのか。オスマン艦隊は、鉄の鎖で封鎖されていた金角湾の外側を迂回して、船ごと山越えしたのである。軌道に油脂を塗って、荷台に船を乗せ牛で運びあげた。72隻の艦隊は一夜にして金角湾に滑り込み、ビザンチンの軍勢は総崩れとなった。
 元はと言えばオスマントルコのルーツは、モンゴル北方の遊牧民、チュルク族であった。トルコはチュルクが語源ならば、勇壮な血を受け継いでいたのもうなずける。
 もっとも現在のトルコが、みなモンゴル系かというと、そうではなく、ギリシア、アラブ、インドなどの血が混じり合っている。さすがコスモポリタン。混血が進んでか、トルコは美男美女が多い。しかも日本贔屓ときて、みなにこにこと近づいてくる。
バルカン紀行 トプカプ宮殿
            ハーレムの部屋の装飾が華やか   
 オスマンのトプカプ宮殿。トプカプ宮殿を一巡りすれば、きらめくばかりの豪壮な部屋に酔いしれる。謁見の間、帝王の間、多彩なタイルの壁は名画を見ているよう。
 なかでもハーレムの間は、華麗な宝石箱に迷い込んだのではないかと見まごう。オスマンの勢力は地中海、インド、バルカンと広がっていたから、世界中の美女を侍らせていた。夜な夜なスルタン(皇帝)は何をするたん。それにしてもこの華やかさ、ハーレムに魅了されずにはいられない。
 「女御更衣あまたさぶらひ給けるなかに、いとやむごとなききはにはあらぬが、すぐれてときめき給ふありけり」(源氏物語 桐壷)。トプカプにも奴隷出身のヒュッレムという絶世の美女がいた。オスマン全盛期のスルタン、スレイマンの寵妃であった。奴隷といっても侵略していった先の姫君である。
 ハーレムも、お世継ぎの画策をみていると、「蝶よ花よ」と浮かれてばかりもいられなかった。そのうえ母后の目は厳しく、歌舞音曲をはじめ高い教養が求められ、美貌だけでは何もすれいまんであった。玉の輿に乗れなかった美女たちも、地方高官のもとに嫁ぎ、地方に文化を広めた。さしずめハーレムは文化庁みたいなところがあった。
 正義の塔の尖り屋根がのぞく。宮殿の中はやたらに塔が多い。立派な図書館がある。スルタンたちの多くは文人でもあり、学問や詩を好み自ら詩作すらした。スルタンたちは読書もしたのである。トプカプは意外と教養に満ちている。
 中庭の東側に煙突の行列、かつて台所で何百人という料理人たちが食事を作っていた。世界に聞こえるトルコ料理は、この煙突からきている。歩き疲れてあずま屋で一休み。ボスポラス海峡に行き交う船を眺めて、日がな一日過ごしていたいと思った。
バルカン紀行 トプカプ宮殿
            トプカプ宮殿の図書館
街に戻ると、ローマ帝国時代の水道橋が現れてきた。水道橋の行く着く先は、地下の貯水所。貯水所は、336本の林立する柱に支えられている。コリント式の装飾が施された柱は、ほのかな灯りに浮かびあがる。メデューサの像が逆さに建てられている柱は、祟りを恐れてのことだろうか。人目に触れることなく静かに眠る地下宮殿。
バルカン紀行 トプカプ宮殿
             静かに眠る地下宮殿
バルカン紀行 トプカプ宮殿
             迷宮のようなグランドバザール
 迷宮のなかの迷宮、グランドバザールに迷い込む。5000を超える店がひしめいて、とても活気がある。絨毯、ランプとあれば、なにやら千一夜の世界を偲ばせる。無限のスパイス、多彩なタイル、香水、アンティーク、奥へ行くほどに妖しい魅力にほだされて、彷徨いたくなる。
 夜、ベリーダンスを見ながらデナーを楽しんだ。炭火焼のキョフテ(肉団子)、ひよこ豆、焼き色のナスのグラタン、白ワイン、濃厚で甘いトルココーヒー、程良く酔いしれているうちに、ベリーダンスが始まった。細やかにリズムを刻み、激しく色っぽく踊り出す。
 ボォーとしていると、ベリーダンサーが近づいてくる。来るな、美女はきらいだ。と言っても、艶然と胸をふるわせ、腰をくねらせ、しなだれかかるように近づいてくる。ハーレムならともかく、こんな大勢が見つめるホールで抱きつかれても困る。だが、美女は潤む瞳で息もかからんばかりにかけよってくる。さすればスルタン。

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