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ラオス紀行 ヴィエンチャンの市場

ヴィエンチャンの市場
ラオス紀行 ヴィエンチャンの市場
おっ母さんの手際の良さ
 トンカンカム・マーケット。いかにも響きがいい。商売をしているのは女の人ばかり、威勢のいいお兄さんなど見当たらない。くんくん、きょろきょろ、うろうろと、市場を歩き回る。縁日のにぎわいにも似て、わくわくとした気分になる。その活気の良さ、混沌とした中で人々の声がぶつかりあう。市場は台所とつながっている。お総菜屋に並べられたものは、塩辛みたいの、野菜の煮つけ、こんがり色の焼き鳥、干物、正体不明のごっちゃ煮、チマキ、麺類、シュウマイ。四里四方の食文化。
 メコン川の近くだけあって、魚の種類も多い。ウナギ、ナマズ、コイ、ライギョ、フナ、どれも獲りたてで生きがいい。大きな洗面器みたいな水槽でぴちぴち跳ねている。どでかいウナギ。これだったら10人前くらいのウナ丼ができる。
 草魚だろうか、魚河岸の肝っ玉母ちゃんが、ぽこぽことこん棒でぶったたいている。くりくり眼で赤いほっぺた。その愛らしい顔つきで、次々と包丁でさばいていく。
 隣では、おばあさんがこの道50年といった顔つきで、魚を売っている。若妻が、多分そんな感じ、「美味しそうね。どうやって食べるの」と訊いている。「焼いても、蒸しても、鍋でも、何にしても美味しいよ」。多分そんな感じ。
ラオス紀行 ヴィエンチャンの市場
お総菜屋さん
ラオス紀行 ヴィエンチャンの市場
おばあさんは年季が入っている
 なにしろメコン川には1000種類もの魚がいるというから、1日1種類として、全制覇するのに3年かかる。 雨季には水があふれて、コイやフナ、ナマズが近くの田圃に寄ってくる。それを手づかみで獲る。乾季ではどうかというと、田圃の中に隠れている。そこへ田圃を掘ってとんます。魚堀というのだけど、遠州地方にだって、昔はそんな光景が見られた。
 雨季、たくさん獲れるので、余ったフナなどは発酵させて保存する。寿司のルーツ、馴れずしである。琵琶湖の鮒ずしよりラオスのほうが歴史的に古い。馴れずしは魚に米をつめる。まさに魚米文化の典型だ。
 その米だが、ラオスの人はもち米が好きだ。稲作の80パーセントはもち米というから、まさに日常茶飯事にもち米を食べる。食堂でも、もち米を竹で編んだ器に入れて出す。モチモチして日本人の口に合う。
 炭火でぼうぼう焼いているでっかい魚、ライギョかフナか。内陸国なので淡水魚ばかりだが、メコンの魚は淡白で美味しい。
ラオス紀行 ヴィエンチャンの市場
メコンの魚はどれも美味しい
ラオス紀行 ヴィエンチャンの市場
塩焼きの香ばしさ
 メコン川の支流、ナムダム川をクルージングしながら、焼き魚、蒸し魚、煮つけと、あらゆる魚料理を賞味した。大きな魚なのに、あっさりとしている。日本でいえば餡かけだけど、こちらは漁醤や香草やスパイスを使って、微妙な味を出している。塩焼きの魚も香ばしい。 こんなに食べても、ラオ・ビール付きで、400円しかからない。註、6人でシェアした場合。
ラオス紀行 ヴィエンチャンの市場
ラオスは竹の国。生活用品に竹は欠かせない
 市場は魚ばかりでなく、野菜、果物、肉、雑貨、なんでも売っている。売り手の女性は、どこか控え目で、仏の国の静かな微笑を浮かべている。ほんとにラオスは奥ゆかしい。
 笊、籠、びく、箕 などを吊るしたお店に入った。例の竹で編んだ、ご飯を入れる器を手にして、これいくらですかと訊くと、1ドルだという。えっ、値段まで奥ゆかしい。
 竹の民芸品を眺めていると、懐かしい気持ちになる。子どもの頃、竹は身近にあった。ラオスでは今でも竹は身近である。どこへ行っても竹藪が村々に寄り添っている。男たちは川で筌(うけ)や四手網で魚を獲る。大がかりな漁具や仕掛けも竹が使われる。
 民家の壁や戸も竹でできている。蒸籠は日々の暮らしになくてはならないし、台所用品のほとんどは竹でできている。竹の楽器はどこにでもある。
 日本では煙管の軸にラオスの国斑竹を使っていた。それで煙管の軸をラオといった。あれはラオスの竹だったのだと、ヴィエンチャンで判明した。
 市場の裏へ抜けると、畑が広がっていた。その畦道を二人して、籠を抱えてゆらゆらと歩いてくる。若い女性の青と赤の衣装が、乾いた畑に映える。

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