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中東紀行 ベイルート

“S.E.M.旅行Gr №172 (06.04.26)”より
池谷さんが 3月16日から28日まで、レバノン・シリア・ヨルダンの中東3国を訪ねて来られました。
中東紀行 ベイルート
世界の火薬庫と言われるイラクを中心とした中近東のイスラム諸国! 池谷さんは危険をものともせず何処へでも出掛けます。 では中東紀行第一回「ベイルート」をご案内します。

ベイルート
関空を夜の11時15分に発ったエミレーツ317便は、西へ向っているので、ずっと夜中のままだ。パキスタン上空、窓の真南にアンタレスの赤い星が見える。目の高さにさそり座があるなんて、星の図鑑を見ているよう。
満月だった。地上に雪山が玲瓏と輝いている。月明下のカラコルム。500万年前も、今夜と同じように月の光を浴びていたのだろうか。山並みは、誰に見られることもなく、深々と静まり返っていた。宇宙と対座する荘厳さは、神のみぞ知る世界であった。人類の出現前にも、神は御座しましたのか。
急峻な山岳地帯の谷間に、ぽつんと灯が瞬いている。こんなに寂しいところにも人の暮らしがある。やがて平原にさしかかると、光の渦が広がってきた。イスラマバード上空、宝石の無限の広がり。
やっと夜が明けて、アラビア半島の突先、ドバイ(UAE)に着いた。今やドバイは主要な中継地、年間2000万人の利用客がある。さすが石油成金の国。
ベイルートには朝の9時に到着。地中海から吹いてくる早春の風がさわやかだった。レバノンは、フェニキア人発祥の地、BC.12世紀、地中海を駆け巡る海洋民族だった。オリーブ油、布が重要な交易品であった。布は赤紫〔緋色〕に染められていた。今も昔も、緋色は高貴の色である。フェニキアは、赤紫の染料の巻貝、ミュレックスに由来する。レバノン杉は船材にむいていたから、北アフリカ、イベリア半島まで航海ができた。
海岸通りの高台から、どこまでも広がる地中海が見渡せる。海に大きな岩が突き出ている。鳩の岩といわれる巨岩のいわれは、伝書鳩を飛ばして情報を送ったことからきている。第1次世界大戦時、鳩は重要な情報手段だった。
地中海を眺めながら、フェニキア人は見知らぬ国で、どのように商売をしていたのだろうか思いがいく。アフリカ西海岸セネガル、陶器や布を並べて、狼煙で合図を送る。浜辺に人々が集まって来て、交換条件に黄金を並べる。商談成立、沈黙交易である。港々での取引は、当然のことながら文字を必要とした。フェニキア人はエジプトの絵文字を簡略化して、アルファベトを発明した。ギリシア・ローマ文化の文字の元になる。
ベイルートは、中東のパリといわれたほど美しかった。フェニキアの血をひいて、商業も盛んだった。しかし、1975年から始まったレバノン内戦によって、戦場に巻き込まれる。キリスト教、イスラム教の混在する宗教のモザイク国家は、中東情勢にともない、いっそう混迷の度を深めていった。レバノン国軍は、漁民にヘリコプターを墜落させられるほど弱体で、LPO、シリア、イスラエルに付け込まれる要因となった。その上、アメリカの思惑が交錯し、不毛の戦いへと長期化していく。ベイルートを東西に分けたグリーンベルトをはさんで、同じ市民同士が攻撃しあった。やっと解決を見たのは、開戦15年後の1989年であった。
中東紀行 ベイルート
【黒焦げの劇場  生々しい内戦跡】
市街は、銃弾の傷跡だらけだった。崩壊したモスク、爆撃を受けたまま黒焦げになっている劇場、廃墟と化したビル。政情も、まだ安定しているとはいえない。05年、ハリリ首相が暗殺された海岸通りをちらりと見ただけで、どこか緊張が走る。首相の遺影が祀られているテント作りの祭壇には、今も花を捧げる市民の列がつづく。
レバノンは、1932年以来国勢調査をしたことがない。大統領はキリスト教徒から、首相はイスラム教徒からという不文律があって、もし人口比率が逆転していたら、暴動を起こしかねない。真実は知らされないままだ。
中東紀行 ベイルート
【復興なるかベイルート  再開発のピッチは早い】
ベイルートは、どこもかしこも復興の槌音が響いている。中東のパリと呼ばれた華やかな時代に戻るまで、まだ時間がかかりそうだが、いつか不死鳥のごとく息を吹き返すことだろう。ローマ時代の遺跡が発掘され、戦火を交えたグリーンベルトに緑が芽吹き、ポピーの花が可憐に咲いていた。
ベイルートは、地中海の青をたたえて、明るさを取り戻しつつある。

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