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西域南道

“S.E.M.旅行Gr №113 (05.03.28)”より
西域南道

 カシュガルからホータンまで500キロ崑崙山脈に沿って西域南道をひたすら東へ向かう。舗装道路にしては揺れが激しい。カシュガルの南にカラコラム山脈がそびえている。マルコポーロも玄奘もこの景色を仰ぎ見たはずだ。クンジュラーブ峠まで300キロ、その先はパキスタン、フンザに至る。去年(04)、奥フンザでバスを降りたとき、クンジュラーブ峠まで115キロと書いてあった
から、パスー村まで400キロしかない。うっすらと霞むカラコラムを見やりながら、あの村の子どもたちは、今どうしているのだろうと思いやった。
 カシュガルの郊外、石炭が積まれていた。この辺は炭田もあるし、鉄も取れる。製鉄所はなかったが、インジーシャにナイフを売る長屋風の店があった。手の込んだ飾り付きのナイフは、護身用というより装身具の用をなす。女は男に愛をこめてナイフを贈る。包丁さばきならぬナイフさばきは男の腕の見せどころ。羊を解体するときは、手際よくやらないと天国へいけない。床屋は、1つのナイフで頭を剃り、ひげをチョチョイのチョイと仕上げる。見事なものだ。
 オアシスの村に、綿花やトウモロコシ畑が広がっている。道すがら綿摘みをしている農家の人たちを見かけた。白く結晶した砂地で、岩塩を拾う農婦がいる。ロバ車が草をいっぱい積んで田舎の道を行く。
 荒涼としたゴビの真ん中をバスが走る。前にも書いたが、ゴビは石ころだらけの砂漠のことで、モンゴルのゴビ砂漠ではない。日が高く昇ると、地面は熱せられて竜巻を起こす。あっちにもこっちにもくるくると砂塵が巻き上がる。崑崙山脈は茫洋として姿をとどめることもなし。道々、名所らしきものは何もない。ただ走る。目に入る光景を片端から路上観察していくしかない。荷物を運
んでいるロバとしょっちゅう行き交う。
 この世ではロバや馬を利用している人口のほうが多いのではないか。それも貧困地域ばかり。だからロバはいつも悲しい目をしているのかもしれない。
西域南道
 泥の家の屋根に枯れ木が乗っかっている。砂漠地帯では屋根が納屋の役割も果たす。道行く電信柱がすべて曲がっているのは、屯田兵が丸太をそのまんまおっ立てたからだ。あんなにひょろひょろしていて、竜巻に持っていかれないかなあ。
 ヤルカンドの食堂で昼食。表通りで、日本の鰻屋みたく煙をもうもうさせながらシシカバブを焼いていた。鉄のコンロに石炭をガンガン熾し、岩塩とコショーをふりかけて、ジュージュー焼きあげる。羊の串焼きをヨイショとばかり持ち上げてぱくついた。もう美味しくてたまらない。草原に育った羊の肉は、極上のステーキよりうまい。
 近くの小学校では、子どもたちが掃除をしていた。やあと運動場に入っていったら、わぁーと集まってきて、掃除どこではなくなった。この辺りの学校は、不審者などいないと見えて大らかなものだ。
 ポプラ並木がけぶるように遠のく。うっすらと緑に包まれた草原にひと群れの羊が草を食んでいる。羊飼いが所在なげにたたずむ。カルガリクにさしかかる。右折すればチベットへとつづく。
西域南道
 にぎやかなバザールに出た。バシェールック・バザール。ロバがいっぱい集まっていた。ロバだけでなく人も多い。ナンの売り場は大繁盛。負けてならじと、シシカバブ屋がパタパタとうちわをあおぐ。香辛料が何十種類も並べられていて、さながら総天然色の世界。漢方薬の売り場では、冬虫夏草やトカゲの黒焼きなどを売っていた。店全体が満艦飾に並べ立てられた帽子屋。衣料品屋でヨーロッパ系の少女が品選びをしていた。ミラコレから抜け出たような美少女。目の前のファッションはどう彼女とはそぐわない。
 靴屋さんが修理をしている。ぼろ靴を前にして、コツコツと留め金をたたく。にこやかな表情が、いかにも靴屋さんといった風情で、「これお願いね」「あいよ」と応対していた。
 ドンタタドンドン、太鼓が響き、ピーピーと笛が鳴る。バザールの反対側の通りで、大勢の人だかりができている。ぼくも駆けつけてタップを踏む。まあ足踏み程度。そうしたら「お前さん、太鼓をたたけ」とスティックを渡された。「任せて」と叩いてみたが、どうもリズムが合わない。「そうじゃあない」と少年が叩いてみせる。
 派手に飾り立てられた車が停まっていた。今から花婿、花嫁を見送るという。そうか結婚式か。それはめでたい。やがて花も恥らうカップルが車に乗り込んでくると、まわりはやんやと囃し立てる。どういうわけか花嫁に付き添う女の子のほうが美人だった。
 バザールには普段の暮らしぶりがある。バザールの小間で、男たちが車座になってトランプに興じている。悪がきがそのまま年を取ったような顔つきで、わいわいオタをこく(冗談を意味する遠州弁)。「まあまあお茶でも飲んで、一緒にやらんケ」と人懐っこい顔でいう。仲間に入ったら、今日のうちにホータンに着けない。
 道々、青空市場がある。ブドウ、スイカ、ハミウリなどの果物が山のように積まれている。ハミウリはハミが原産だけど、西域ならどこでも売っている。今が旬で、オレンジ色の果実は夕張メロンのような味がする。
西域南道
 皮山(ピサン)の道端にザクロがころがっていた。真っ赤な大きな実にかぶりつくと、ほのかに甘かった。乾燥地帯の果物は、太陽をいっぱい浴びて甘くなる。
 ホータンへ向けて、夕暮れの道を行く。綿畑に混じって田んぼがあった。灌漑さえあれば、稲作も可能なわけだ。オート三輪が走っている。というよりオートバイがリヤカーを引いているようなのだ。ロバ車に乗った家族連れが、今日の業をなし終えて家路につく。あの家族の団欒はどんなんだろう。ポプラ並木がいよいよ濃くなって、ホータンの街が近づいてくる。

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